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第9回 年金受給の繰上げ、繰下げのメリット、デメリット


前回の「ねんきん定期便」の「老齢年金の見込額」のところで出てきた受給開始年齢の繰上げ、繰下げについて、説明していきます。

年金額を増額するために大事な話ですので、今回も分かりやすく説明していきます。

1. 老齢年金の繰上げ、繰下げについて

老齢基礎年金、老齢厚生年金(以下、老齢年金という)は、原則65歳から受給できますが、本人が希望すれば60~64歳の間で早めに受け取りを始めることができます。

逆に、65歳からの受給を遅らせて、66~75歳の間で受け取りを始めることもできます。

以下の表のように、60歳まで繰り上げると、24%(=0.4%×60カ月)減額され、年金額は76%に減額されます。この減額された年金を生涯受け取ることになります。

なお、1962年4月1日以前生まれの人は、1カ月繰り上げるごとに年金が0.5%ずつ減額され、60歳まで繰り上げると、30%(=0.5%×60カ月)減額され、年金額は70%に減額されます。この減額された年金を生涯受け取ることになります。

以下の表のように、75歳まで繰り下げると、84%(=0.7%×120カ月)増額され、年金額は184%に増額されます。この増額された年金を生涯受け取ることになります。

2. 繰上げ、繰下げによる年金額の増減の具体例について

上記の表では、具体例として、65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計の平均年金額である176万8千円を受給できるとしたときに、繰上げ受給、繰下げ受給したときにもらえる年金額の増減をまとめてみました。

具体的には、受給開始を60歳まで繰り上げたときには年金額は134万4千円まで減少し、その年金額が生涯続きます。

逆に、受給開始を75歳まで繰り下げたときには年金額は325万3千円まで増加し、その年金額が生涯続きます。

3. 繰上げ、繰下げの「逆転年齢」について

上記の表の中の「逆転年齢」とは、60~64歳の繰上げについては、この年齢以上長生きすると、65歳から年金を受給開始したときよりも年金受給総額が少なくなる年齢を示しています。

例えば、60歳に繰上げした場合は、80歳10カ月以上長生きすると、繰上げ受給せずに65歳から受給した方が年金の総受給額が多くなります。

66~75歳の繰下げについては、この年齢以上長生きすると、65歳から年金を受給開始した時よりも年金受給総額が多くなる年齢を示しています。

例えば、75歳に繰下げした場合は、86歳11カ月以上長生きすると、65歳から受給するよりも75歳に繰下げした方が年金の総受給額が多くなります。

逆に言うと、86歳11カ月より早く亡くなると、繰下げ受給せずに65歳から受給した方が年金の総受給額が多くなります。

「逆転年齢」は、簡単な数式で計算できます。

60~64歳の繰上げ受給については、「受給開始年齢+20年10カ月」が「逆転年齢」になります。

66~75歳の繰下げ受給については、「受給開始年齢+11年11カ月」が「逆転年齢」になります。

なお、実際には、年金からは、所得税、住民税、国民健康保険料、介護保険料が徴収されます。手取りは額面の約7割程度と考えておきましょう。

年金を繰り下げることで年金額は増えますが、税金や社会保険料も増えていきますので、手取り額はそこまで増えません。

手取りベースで考えると、以上のような「逆転年齢」は数年遅れると考えられます。

特に、年金収入が、所得税、住民税の非課税限度額を超えていなかった方が、繰下げをすることで限度額を超えるようになると、税金がかかるようになります。

さらに、住民税非課税世帯でなくなると、自治体などの各種給付金や医療費、保険料の軽減措置等を受けられなくなるので注意が必要です。

例えば、一人世帯の非課税限度額は、所得税については65歳未満が155万円、65歳以上が205万円、住民税については155万円となります。

最後に、年金受給の繰上げと繰下げの留意点をいくつか挙げておきます。

4. 老齢年金の繰上げの主な留意点

老齢年金の繰上げの主な留意点

・老齢基礎年金の支給繰上げの請求と老齢厚生年金の支給繰上げの請求は同時に行わなければなりません。

・老齢年金を繰上げ請求した後は、繰上げ請求を取消しすることはできません。

・老齢年金を繰上げ請求すると、国民年金の任意加入や保険料の追納はできなくなります。

5. 老齢年金の繰下げの主な留意点

老齢年金の繰下げの主な留意点

・老齢基礎年金の支給繰下げと老齢厚生年金の支給繰下げの申出は、それぞれ単独に行っても、同時に行ってもかまいません。

・繰下げた老齢年金を一度でも受け取ると、繰下げを取消しすることはできません。

・「特別支給の老齢厚生年金」は65歳までの有期年金であるため、繰下げはできません。

6. まとめ

令和5年度においては、厚生労働省の統計によると、国民年金の繰上げ受給の利用者は10.4%、繰下げ受給の利用者は2.2%となっています。

平均寿命が延びている中で、長寿となり生活資金面が厳しくなったときのリスクヘッジのために、繰下げの活用はもっと考えられても良いのではないかと思います。


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