補助金は、国や地方自治体が特定の目的を達成するために、事業者(企業等)が行う新しい取り組みに対して、費用の一部を支援する制度です。
例えば、新しい商品を開発したり、最新の機械を導入したりする際に、その費用の一部を国や自治体が補助してくれます。
これにより、事業者は自分たちのやりたいことを実現しやすくなります。補助金は事業者の挑戦や成長を後押しし、実現を支援してくれる資金です。
中小企業向けの補助金は、経産省の中小企業庁、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)が目的に応じた様々な補助金メニューを準備しており、非常に充実しています。
中小機構では、これらの補助金活用を支援するために、「補助金活用ナビ」というWebサイトを運営しており、目的に合った補助金を見つけるために有益な情報を得ることができます。
「補助金活用ナビ」によると、2025年度は、以下のような補助金メニューが準備されています。

これらの補助金メニューについて、年間、何度か公募されるものが多く、「補助金活用ナビ」では、補助金名、公募回、公募開始日、申請開始日、申請締切日、採択発表日が、一覧表の形で「小規模事業者・中小企業向け補助金スケジュール」として公表されています。
現時点で、どの補助金のいつの公募を目指して準備を進めれば良いかを知ることができます。
どの補助金であろうと、補助金の申請から受取りまでの流れは以下のとおり大体同じです。
ただし、補助事業実施期間(経費が補助対象となる期間)や補助金の採択から受取りまでの期間は補助金メニューによって異なりますので、これらの期間については、それぞれの補助金公募要綱で確認する必要があります。

今回から、数回にわたって、今年度の人気の補助金を紹介していきます。
まず今回は、中小企業新事業進出補助金について、分かりやすく説明します。
中小機構が令和7年度に開催した新事業進出補助金の概要説明会(第2回公募)の資料が非常に分かりやすいので、そこから大事なポイントを引用しながら、説明していきます。
さらに詳しくは、補助金公募要領をごらんください。
1. 中小企業新規事業進出補助金の目的
新規事業への進出により企業の成長・拡大を図る中小企業の設備投資を促進するために、令和7年度から始まった新しい補助金です。
上記の補助金スケジュールによると、第1回の公募は採択まで終了し、第2回の公募の申請が2025年12月19日に締め切られました。
今年度は2回の公募で終了かどうかは分かりません。中小機構が、この補助金メニューのために確保している予算を消化したかどうかによって判断されると思います。
来年度以降、この補助金メニューが続くのかどうかは明確ではありませんが、トランプ関税で中小企業の支援が一層重要になっていますので、こういう新事業進出を支援するようなタイプの補助金は若干変更があっても継続していくのではないかと想像します。
2. 補助金の対象者
企業の成長・拡大に向けた新規事業への挑戦を行う中小企業等が対象です。
資本金(資本の額又は出資の総額)又は常勤従業員数が、下表の数字以下となる会社又は個人が補助対象者となります。

それ以外に、上記に該当しなくても、一定の業種(特定事業者の一部)、例えば、製造業・建設業・運輸業、卸売業、サービス業(ソフトウェア業等を除く)については、資本金が10億円未満であれば、常勤従業員数がそれぞれ500人、400人、300人以下となる会社または個人は補助対象者となります。
また、従業員が300人以下の組合及びその連合会、公益法人等、農事組合法人及び労働者協同組合も補助対象者となります。
ただし、本補助金の申請締切日を起点に16か月以内に、新事業進出補助金、事業再構築補助金、ものづくり補助金に交付候補者として採択された事業者、または申請締切日時点にこれらの補助金の交付決定を受けて補助事業実施中の事業者は補助対象外となります。
また、応募時点で従業員数が0名の事業者や新規設立・創業後1年に満たない事業者なども補助対象外となります。詳しくは、補助金公募要領をごらんください。
3. 補助金額と補助率
補助金額と補助率は以下のとおりです。補助事業実施期間は、交付決定日から14か月以内が原則です。
大幅な賃上げによる補助上限額引上げの特例措置については、4.で説明します。

例えば、従業員数が21~50人のときに、補助金額の上限が4000万円ですが、補助率1/2で補助金4000万円というのは、8000万円の設備投資等が補助事業の対象として認められた場合に、その1/2の4000万円が補助されるということです。
補助金は、事業者が一旦費用を負担し、後から補助金が支払われる仕組みです。このため、最初に自己資金あるいは銀行融資等で8000万円を用意しておく必要があります。
4000万円は補助金でまかなえても、残りの4000万円は最終的に自己負担になります。したがって、申請する補助金の上限が大きいからと言って、不要不急の設備投資等は行わないのが重要です。
また、補助金額の確定検査において、補助対象にならないものを調達していた場合や不適切な手続きで調達していた場合はそれらについては補助事業の対象と認められないので、注意が必要です。
4. 補助対象事業の要件
補助対象者は、以下の補助対象事業の要件を満たす3~5年の事業計画に取り組むことが必要です。
表の中の「返還要件あり」と付いている要件は、目標未達の場合に補助金を返還する義務のあるもので、特に注意する必要があります。

(1)新事業進出要件
上記の【要件の全体像】の①の新事業進出要件では、以下のとおり、事業を行う中小企業等にとっての「製品等の新規性」、「市場の新規性」に加え、「新規事業の売上高」に係る要件を満たすことが必要です。
以下の表の*1の「新規性」は、事業を行う中小企業等にとって、事業により製造等する製品等が新規性を有するものであることです。
表の*2の「新たな市場」は、事業を行う中小企業等にとって、既存事業において対象となっていなかったニーズ・属性を持つ顧客層を対象とする市場のことです。

新事業進出要件については、詳しくは中小機構の中小企業新事業進出補助金のWebサイトに掲載されている「新事業進出指針」や「新事業進出指針の手引き」を参照してください。
新事業進出要件を満たす例として、手引きでは以下のような例などが挙げられています。
新規事業進出要件を満たす例
・製造業の例として、ガソリン車の部品を製造していた事業者が、車両部品の製造で培った技術を活かして、新たに半導体製造装置の部品の 製造に着手する場合
・情報サービス業の例として、アプリやWEBサイトの開発を行っていた事業者が、既存事業でのノウハウを活かして、地域の特産物等を取り扱う地域商社型のECサイトの運営に取り組む場合
(2) 付加価値額要件
4. の冒頭の【要件の全体像】の②付加価値額要件、③賃上げ要件、④事業場内最賃水準要件では、以下の要件を満たすことが必要です。

②の付加価値額とは、(営業利益)+(人件費)+(減価償却費)で計算します。
注意が必要なのは、法人と個人事業主で人件費の計算の仕方が異なることです。
法人の場合は、売上原価に含まれる労務費や一般管理費に含まれる役員給与、従業員給与、賞与、福利厚生費、退職金等です。個人事業主の場合は、福利厚生費、給料賃金ですが、事業主本人の所得は含めません。
(3) 賃上げ要件
③の賃上げ要件については、2つのケースのどちらかを選択できます。
一つ目のケースは、補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、1人あたり給与支給総額の年平均成長率を事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間(令和2年度~令和6年度)の年平均成長率を基準値として、これ以上とする必要があります。
この都道府県ごとの最低賃金の年平均成長率は補助金公募要領に掲載されています。なお、給与支給総額とは、従業員に支払った給与等(給料、賃金、賞与等は含み、役員報酬、福利厚生費や法定福利費、退職金は除く)をいいます。
例えば、東京都(年平均成長率2.8%)で従業員の一人当たり給与支給総額が年間500万円の事業者が、補助事業終了後に年平均成長率3%で3年の事業計画を立てる場合は以下のように引き上げていく必要があります。
年3%で3年の事業計画を立てる場合の一人当たり給与支給総額
事業年度1年目
5,000,000×1.03=5,150,000
事業年度2年目
5,150,000×1.03=5,304,500
事業年度3年目
5,304,500×1.03=5,463,635
→ 3年目には、一人当たり給与支給総額を年間547万円程度まで上げる必要があります。
二つ目のケースは、補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、給与支給総額の年平均成長率を都道府県に関係なく2.5%を基準値として、これ以上とする必要があります。
例えば、給与支給総額が年間2,000万円の事業者が、補助事業終了後に年平均成長率3%で3年の事業計画を立てる場合は以下のように引き上げていく必要があります。
年3%で3年の事業計画を立てる場合の給与支給総額
事業年度1年目
20,000,000×1.03=20,600,000
事業年度2年目
20,600,000×1.03=21,218,000
事業年度3年目
21,218,000×1.03=21,854,540
→ 3年目には、給与支給総額を年間2,186万円程度まで上げる必要があります。
申請者自身で、一人当たり給与支給総額基準値以上の目標値(以下「一人当たり給与支給総額目標値」という。)及び給与支給総額の基準値以上の目標値(以下「給与支給総額目標値」という。)をそれぞれ設定し、交付申請時までに全ての従業員等に対して表明することが必要です。
基準値より高い目標値を設定した場合、その高さの度合い及び実現可能性に応じて審査で評価されます。
そのうえで、補助事業実施期間の終了時点が含まれる事業年度の一人当たり給与支給総額及び給与支給総額を基準として、事業計画期間最終年度において当該一人当たり給与支給総額目標値又は給与支給総額目標値のいずれかを達成することが必要です。
最終年度において、一人当たり給与支給総額目標値及び給与支給総額目標値のいずれの目標値も達成できなかった場合、補助金交付額に達成度合いの高い方の目標値の未達成率を乗じた額の返還を求められます。
(4) その他の要件
4. の冒頭の【要件の全体像】の⑤ワークライフバランス要件、⑥金融機関要件、⑦賃上げ特例要件では、以下の要件を満たすことが必要です。
この⑦の賃上げ特例要件を満たす場合は、3.補助金額と補助率の表の一番右側の列にあるように、補助金の上限額が、2,500万円、4,000万円、5,500万円、7,000万円からそれぞれ3,000万円、5,000万円、7,000万円、9,000万円に引き上げられます。

5. 補助対象経費
補助対象経費には以下の9つの経費区分があり、補助対象経費には機械装置・システム構築費、建物費のいずれかを含む必要があります。
補助対象経費/補助対象外経費については、詳しくは公募要領をご参照ください。
補助対象経費の区分
①機械装置・システム構築費(リース料を含む)、
②建物費(構築物資を含む)、
③運搬費、④技術導入費、
⑤知的財産権等関連費、
⑥外注費、⑦専門家経費、
⑧クラウドサービス利用費、
⑨広告宣伝・販売促進費
6. 審査項目
書面審査の審査項目は以下のとおりです。詳しくは公募要領をご参照ください。
審査項目
①補助対象事業としての適格性、
②新規事業の新市場性・高付加価値性、
③新規事業の有望度、
④事業の実現可能性、
⑤公的補助の必要性、
⑥政策面、
⑦大規模な賃上げ計画の妥当性
このうち、②については、以下の新市場性、高付加価値性のどちらかの観点で審査されます。
詳しくは、中小機構の中小企業新事業進出補助金のWebサイトに掲載されている「新市場・高付加価値事業の考え方」をご参照ください。
新市場性・高付加価値性
「新市場性」:補助事業で取り組む新規事業により製造又は提供する、製品又は商品若しくはサービスのジャンル・分野の社会における一般的な普及度や認知度が低いものであるか。
「高付加価値性」:同一のジャンル・分野の中で、当該新製品等が高水準の高付加価値化・高価格化を図るものであるか。
7. 事業計画の作成と申請について
新事業進出補助金をはじめ、中小機構の補助金は電子申請が可能です。
応募する事業者は、6.審査項目に対応した自らの事業計画を電子申請システムに入力するとともに、決算書等の書類を提出します。
事業計画作成の概要は以下のとおりです。事業計画は、中小機構の中小企業新事業進出補助金のWebサイトに掲載されている「事業計画テンプレート」も参考に作成してください。

補助金申請書類作成に当たっての支援業務は、行政書士に依頼することができます。
なお、コロナ禍において、行政書士でない者が補助金等の代理申請を行い、多額の報酬を受け取っていた悪質な事例が多発しました。
このため、2026年1月から施行される改正行政書士法により、「会費」、「手数料」、「コンサルタント料」、「商品代金」等のどのような名目であっても、対価を受領し、業として官公署に提出する書類、図面類を作成することは、行政書士法に違反することが明確化され、違反者やその所属法人に対して罰金刑が科せられることとされました。
悪質な補助金コンサルタント等にはくれぐれもご注意ください。
なお、7月まで行った第1回公募については、採択結果が10月に中小企業新事業進出補助金のWebサイトに公表されています。
それによると、全体で3,006件の応募があり、そのうち1,118件が採択されています。採択率は37.2%となっています。
応募件数・採択件数ともに、製造業、卸売業・小売業、建設業の順に多く、製造業については、応募件数617件に対して採択件数が320件となっており、採択率は51.9%に上っており、全業種の中で最も高い比率になっています。これは、製造業が、製品等の新規性や市場の新規性を公募提案の中で最も説明しやすいからではないかと想像します。
補助金申請額は、2,000万円以上~2,500万円未満のカテゴリが、応募件数が763件、採択件数が283件となり、両方とも最も多かったようです。
大変魅力的な補助金なので、新事業に進出を考えておられる皆さんは、専門家に相談して応募を考えてみてはいかがでしょうか。